【絵柄パクリ】他人の絵柄を真似することの良し悪しについて考える〈個人的な意見と理由〉

今回は、ちょくちょく創作界隈で話題になっている「絵柄パク」について考えてみます。
まず、絵柄パクとは何か?
これは、絵柄をパクること――すなわち、他のイラストレーターさんの絵柄を真似して絵を描く行為のことです。
※ここでの”絵柄”は、絵の内容のことではなく、画風のことを指しているものとします。
絵の練習法として肯定的に捉える人と、パクリはだめだと否定的に捉える人がいるため、炎上しやすい問題です。
今回はこれについて、自分の意見とその理由、および反対意見への反論を述べてみます。
※参考→pixiv百科事典『絵柄パク』など
ちなみに前提として、絵柄そのものに著作権は発生しません。
もちろん著作権の問題は色々と難しいところがあるので、一概にそうとは言い難いです。
ただ、基本的には絵柄を真似したところで著作権侵害とされることはありません。
したがって、法律という観点から見れば”ほぼ白”です。
一方、絵柄だけでなく「構図」「デザイン」「配色」「ポーズ」「モチーフ」などをすべて真似してしまうと、元の作者さんの作品と酷似した作品ができあがります。
模写したわけではなくとも、実質模写したのと同じことになるわけですね。
この場合、著作権侵害と判断される可能性が極めて高いです。
したがって、こういった点には注意する必要があります。
自分の意見とその理由
以上を踏まえて自分の意見を述べると、”絵柄パクは問題がない”です。
ただし、条件があると考えています。
条件の1つは、前述した通り、絵柄以外の部分を意図的に丸パクリするのはダメだということ。
もう1つは、たった1人のイラストレーターさんから丸パクリするのではなく、複数のイラストレーターさんを参考にするべきだということ。
最後の1つは、イラストレーターさんご本人が「自分の絵柄を真似しないでくれ」とおっしゃっている場合には、真似しないようにすること。
以下に理由を述べていきます。
理由1:完全にオリジナルな絵柄など存在しないから
理由の1つ目は、完全にオリジナルな絵柄など存在しない――すなわち、誰しもが誰かの絵柄フォロワーだからというものです。
どんな絵描きでも、最初は、誰かの絵を真似して絵を描いていたことだと思います。
特に、漫画的なデフォルメ表現に関しては、意識的にせよそうでないにせよ、先行作品の影響を受けているはずです。
第一線で活躍されているイラストレーターさんたちも、過去に様々な絵柄を取り込んだ結果今の絵柄に辿り着いたのだと思います。
したがって、本来の絵柄パクは「パクリ」というマイナスイメージのあるものではなく、ごく自然な練習法に過ぎないと思うのです。
理由2:”絵柄”というのは表現技法の組み合わせのことだから
絵の表現技法には
- 厚塗り
- アニメ塗り
- ギャルゲ塗り
といった塗り方の区別のほかに
- 髪の毛を塗るときには天使の輪っか状のハイライトを入れると良い。
- △△な瞳の描き方をすると可愛くなる。
- デフォルメ絵の時には目を大きく描く。
- ちびキャラには首や肩を描かなくてもいい。
など、様々なものがあります。
そして、こうした様々な表現技法を組み合わせることで、1つの絵柄が生まれるわけです。
よって、「絵柄をパクるな!」と言ってしまったら、今までに生まれた様々な表現技法を、他の人が使うことができなくなってしまいます。
するとどうなるかというと、イラスト業界全体の成長がストップします。
既存の塗り方で塗ってはいけない。
既存の瞳の描き方が使えない。
既存の顔のバランスを真似してはいけない。
――となることで、先人たちの蓄積が無に帰してしまうのです。
そのような事態を避けるべく、絵柄の模倣は肯定されるべきだと思っています。
理由3:1人の人からパクらない方が良いのはなぜか
少し前までの私は、上記のような理由で、”絵柄パク”は完全に肯定されるべきだと思っていました。
特定の1人の絵柄を真似するだけでも問題ないと。
実際、どんなに頑張って絵柄を真似したとしても、描いている人が違う以上、その人の完コピになることはできません。
自分以外の誰かと全く同じものを作り出すことは不可能です。
なぜならば、育ってきた環境や伝えたいことの内容が違うので、”絵柄”以外の部分に個性が出るハズだからです。
また、模写をやってみると分かるのですが、全く同じ作品を生み出すことは技術的にも相当困難です。
結果、誰かの絵柄を真似したところで特に問題は生じないと考えられます。
しかし、Twitterなどで色んな人の意見を見てみると、想像以上に否定的な考えが多くて驚きました。
どうしてこんなに否定されているんだろう? と疑問に思い、色々調べてみることに。
やがて、あることがきっかけで否定的な意見についても理解できるようになりました。
Instagramで様々な方の絵を見ていた時のことです。
とても特徴的な絵柄のイラストレーターさん(プロの有名な方)とそっくりなイラストを描いている方を見つけました。
ご本人としか思えなかったのに別人だったので、非常にビックリしました。
そして初めて、少しモヤモヤした気持ちになりました。
このようなモヤモヤした気持ちを抱く人が多いから、否定的な意見が聞かれるんだなと気づいたのです。
理屈がどうこうではなく、感情的な問題ですね。
そこで、こうした感情的な問題に配慮するために、1人の人ではなく複数の人から絵柄を真似するべきだと考えるようになりました。
ただこれも、特定の絵柄が普遍的な表現として浸透してしまったら、もうパクるパクられるなどという話ではなくなるのかもしれませんが……。
その他の否定的な意見と、それに対する反論
意見1
人が努力して築いた絵柄を勝手に真似るのはずるい。
それだと、正当な努力をしていない人が上手い絵を描けるようになってしまうのでは?まず、絵柄を寄せるのには多大な努力が必要です。
絵柄パクを疑われるレベルに到達するのは、並大抵のことではありません。また、真似されている側も多くの人の絵柄を真似してきたはずです。
つまり、絵柄を真似する=楽して成功できるということではないのだと思います。
さらに、先ほども言及しましたが、どの業界においても、先達が築いてきたものをベースにして新しい世代が新たなものを生み出すようにしないと、業界自体が衰退してしまいます。
例えば、とある絵柄(正確に言うと、その絵柄を構成している表現技法)をベースに新たな絵柄を生み出していけば、効果的にどんどん魅力的な絵柄を作っていくことができます。
これが流行を生み、イラストというコンテンツが飽きられない原因となります。※もちろん昔からある絵柄も、それはそれで需要に応じて生き残ります。
ですがここで、「絵柄をパクるな」と言ってしまうと、既存の絵柄をベースにすることができなくなります。
- こんな加工をかければ、こんな印象を生み出すことができる。
- △△な目の書き方をすると可愛くなる。
- デフォルメをする際にはここをこんなふうに極端に描くと良いらしい。
といった、イラスト業界におけるハウツーが無に帰すのです。
これも繰り返しになってしまいますが、絵柄というのは結局のところ表現技法の組み合わせのことなので、「既存の絵柄を真似るな」というのは「既存の表現技法を使うな」と言っていることに等しいと思います。
それは少しおかしいのではないでしょうか。
意見2
絵柄を真似した相手の仕事を奪うことになるからダメでは?上述したとおり、絵柄を真似るというのは誰もが互いにやっていることです。
また、仮に全く同じ絵柄で描いたとしても、描いた人が違えばそれだけで違う絵になります。
今までに見てきたものや考えてきたこと、その人ならではの感性やアイディア、発想力、伝えたいことなどが、イラストを通じて表出するからです。
もちろん、技術力の差もあります。そのため、「同じ絵柄の人が現れたから仕事がなくなる」というのは考えにくいと思います。
そもそも、自分の絵柄で活動できているくらい人気がある人なら、自分の”名前”が売りになるレベルでしょうから、絵柄フォロワーがいたところであまり影響はないと考えられます。
かりに絵柄を真似ている人に仕事を取られるようなことがあったならば、それは絵柄の問題ではなく、絵柄以外の部分の画力や、知名度、クライアントさんとの相性などの問題ではないでしょうか。
※私自身は全然仕事が無いので、偉そうなことは言えないのですが……(話半分に聞いてください)。また、全く同じ絵柄の人は存在しませんが、似たような絵柄の人は数多くいます。
その中から「自分に」仕事を依頼してもらわなければならないという意味では、みな置かれている状況は同じはずです。
意見3
人の絵柄で描いていて楽しいの?これについては、人によると思います。
少なくとも私の場合、人の絵柄を真似るのも好きですし、何も参考にしないで自由に描くのも好きです。楽しくなくて、なおかつ楽しくないことはやりたくないという人の場合、そもそもやらないのではないでしょうか。
一方で、「楽しくないけど仕事としてやっている」というのなら、それはそれで1つのやり方だと思います。
意見4
真似しかできない人は絵の成長が止まる/下手になるのでは?むしろ、真似をしないほうが絵の成長が止まると思います。
なぜなら、我流の場合には正解が存在しないため、画力の上げようがないからです。例えば、「デッサンを正確にするべき」という概念自体が、「デッサンが正確な絵柄」に則った概念でしかありません。
したがって、真似する絵柄が存在しない場合には、デッサンが狂ってようがなんだろうが間違いではないのです。
同じ理屈で考えると、目標とする絵柄が無い場合、信じられないような配色で塗っていたっていいし、線画がガッタガタでも良いということになります。
キャラが美男美女である必要はないし、なんなら何を描いているかが伝わらなくたって構いません。
つまり、画力という概念自体が存在し得ないのです。
そうなると、自分との戦いというか、ひどく曖昧で抽象的なものとの戦いになってしまって、成長しづらいように感じられます。
(芸術分野に精通している人にしか分からないような、別の評価軸はあるんだろうと思いますが)対して、目標となる絵柄が決まっていれば、自分に足りないものが明確になり、それを埋めるために努力することができます。
結果、画力が向上しやすいと考えられます。
意見5
個性が無いと仕事にならないのでは?個性というのは、基本を押さえた上で自然とにじみ出てくるものなので、そもそも消えてしまうということは無いのではないでしょうか。
一人一人が異なる人間であり、絵に対して真摯に向き合っている以上、自ずと個性は生まれるはずです。
むしろ初心者の内は「悪目立ちする個性」が強い場合が多いので、意識的に個性を消すようにした方が、仕事がもらいやすいと思います。
そして自分では完璧に個性を消したつもりでも、案外消えていないものだとも思います。
(私自身は、まだ、この”個性を消したほうが良い”段階にいるつもりです)※アート方面に進む場合(イラストレーターではなく画家になる場合)には話が違うかもしれません。
また、個性のある絵だけに需要があるわけではありません。
商業イラストでは、むしろ没個性的な絵が求められることも多いです。
ストックイラストや、一般企業のポスターに使われる絵などを想像してもらえると分かりやすいのではないでしょうか。アニメーターになる場合も、個性的な絵ではなく、指定された絵柄に合わせて違和感のない絵を描く能力の方が求められるでしょう。
その他のコンテンツでも、”○○の絵柄に寄せて描いてくれ”と頼まれる案件が非常に多いです。
したがって、まず絵に個性が無いということはあり得ないし、仮に個性がない(小さい)としても、仕事が無いことにはならないと考えられます。
絵柄パクを疑った/疑われた時の対処法
絵柄パクを疑った時
この人の絵、〇〇さんの絵柄パクでは? と思った時にはどうすれば良いのでしょうか?
もしも好きなイラストレーターさんの絵がパクられていたら、腹が立ってしまうかもしれません。
腹が立つあまりに攻撃的な態度を取りたくなることもあるでしょう。
しかし、相手が本当にその人の絵柄を真似したかどうかは分かりません。
偶然似てしまっただけかもしれないのです。
また、上述の通り、絵柄パクそのものが悪いことではありません。
賛否両論が分かれる問題である以上、一方的に非難するのは避けたほうが良いと思います。
対処法としては、「黙ってスルーする」が一番なのかなという感じです。
自分の目に入れたくない場合には、ブロックなりミュートなりで対策が可能です。
絵柄パクを疑われた時
では逆に自分が、〇〇さんの絵柄パクでは? と言われた際にはどうすれば良いのでしょうか?
幸い私はこういうことを言われたことがない(というかそのレベルにまで絵柄を洗練させることができていない)のですが、もし言われたらどうすればいいのかな? と考えてみました。
まず、完全に偶然の場合と、本当に真似している場合の2パターンが考えられますよね。
完全に偶然の場合(たまたま絵柄が似てしまっただけ)は、素直にそう説明すると思います。
もしも相手が納得してくれない場合や嫌がらせをしてきた場合には、ブロック等で距離を置くかもしれません。
(最悪、法的手段に出ることになります)
対して、本当に真似しているのを見抜かれた場合にはどうするでしょうか。
その場合も、やっぱり正直に説明するしかないのかなと思っています。
結局、前者の場合と同じですね。
また、特定の1人ではなく複数の人の絵柄を真似しているわけなので、その全員(は無理でも、主な人だけでも)の名前を挙げれば、多少は納得してもらえるのかなと思ったり。
……うーん、あまり有効な対処法ではないのかもしれませんが、このくらいしか思いつきません。
あるいはもう、一括して完全スルーというのもありかもしれません。
まとめ
ここまで、絵柄パクについて見てきました。
自分の意見をまとめると次の通りです。
- 他者の絵柄を真似するのは悪いことではなく、むしろごく普通の練習方法である。
- しかし、参考にするイラストレーター本人や周囲の感情に配慮する必要はある。
- 複数の人の絵柄を真似して自分なりに練習することで、自然と個性も出るはず。
- イラストの仕事においては、没個性的な絵柄や、絵寄せの技術が求められることも多い。
- 絵柄パクを理由に誰かを非難するのはやめたほうが良い。
以上。
あくまでも1つの意見として、参考程度に見ていただければ幸いです。
それではまた、頑張っていきましょう! 甘抹らあでした。
Twitter▶@amamatsu_lar