【一次創作】『僕と公立探偵』のあらすじと伏線まとめ(作品本編はpixivにて公開中)

こんにちは。甘抹らあです。絵を描く人です。

今回は、私が書いた一次創作の小説『僕と公立探偵』について語らせてください。
絵を描く人といった舌の根も乾かぬうちに何をって感じですが、物書きとして色々喋ろうと思います。

『僕と公立探偵』は私の処女作で、長編ミステリーです。pixivで読めます。

本編のリンク→https://www.pixiv.net/novel/series/7942811

あとがきには、こんなことを書きました。(同じものをpixivの本文ラストに挿入しています)

 こんにちは。作者の甘抹らあです。
 この度は、この長い小説を最後まで読んでくださって(あるいは最後だけでも見に来てくださって)ありがとうございました。
 少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。

 この作品は私が幼い頃に構想を考え、そこから10年以上かけて完結させたものです。
 その間に他のいくつかの短編・長編を書き始め、書き終えてしまいましたが、自分の感覚としては、この作品『僕と公立探偵』が、私の処女作です。

 読んでくださった方なら分かる通り、平凡な男子中学生が絶世の美女と出会うというラノベめいた始まり方をします。
 その絶世の美女が実は名探偵で、彼女と一緒に様々な事件を捜査するストーリーです。物語が進むにつれ、どんどん内容が深刻になっていきます。
 シリアスなシーンの入り方は唐突で、キャラは無駄に多くて覚えにくく、なんだかセリフ回しもぎこちない……ハッキリ言って、クオリティが低い作品です。
 それでも、私は自分が昔書いた部分を、ほとんど改稿していません。流石に小学生の頃に書いた初稿は影も形もありませんが、その後に書いた部分は、文法的なミスと心理描写の分量を修正する程度にとどめています。
 なぜ大きく書き直さなかったのか?
 正直に言ってしまえば、時間が無いからというのはあります。
 ただそれ以上に、今の形の『僕と公立探偵』に対して思い入れが強いからというのが大きいです。
 些細な言葉選びやキャラの言動一つ一つが、私の中に刻み込まれてしまっています。何も見ずに1から読み上げられるのではないかというほど、すべての文章を覚えているのです。
 処女作には作者の核となるものが詰まっているだとかなんだとかいう話を聞いたことがありますが、まさにその通りだと思います。
 那由ちゃんの青臭い理想も、三谷さんの夢見がちな性格も、輪吾君の悩みも、ライト君の情けなさも、すべて私の一部です。
「もっと良い表現方法があるのかもしれない」
「構想を一から見直すべきかもしれない」
 そう思う箇所は多々あれど、変えてしまったらそれはもう、輪吾君たちでは無くなってしまうような気がしました。
 そのため、今の形のまま公開しています。

 さてなんだか言い訳めいた話をしてしまいましたが、何が言いたいのかというと、この作品への思い入れがとても強いということです。
 それだけ思い入れがある作品だからこそ、最後まで読んでくださった皆様には感謝しかありません。
 この作品のために貴重なお時間を割いてくださり、本当にありがとうございました。

 また、他サイトで読んでくださった皆様へ。
 どれだけの方がここにまた来てくれたのかは分かりませんが、投稿サイトを転々としてしまって申し訳ありませんでした。一番居心地がよく、使いやすい場所を探した結果、こちらのpixivに落ち着きました。
 今思えば、自分勝手に掲載場所を変えてしまい、本当に悪いことをしました。せっかく書いてくださった感想やレビューが消えてしまったことに加え、自分が送った感想なども消えてしまったことが、ひたすらに申し訳ないです。ごめんなさい。
 読者様からいただいた感想やイラストは、どれも非常に嬉しかったです。ありがとうございました。

 そして、続編についてです。
 こんな終わり方をしたせいで、作品を読んでくださった数名の方から「続編は?」と言われています。
 続編についても、すでに構想はあります。構想というか、ある程度ちゃんとしたプロットの形になっています。が、まだ書くべき時ではないと考えて、ずっと先延ばしにしてきました。
 最近になって、そろそろ書けるんじゃないかな? という気持ちが湧いてきたので、執筆にとりかかろうと思います。
 まだ調べないといけないことがたくさんあり、分量もそれなりになりそうなので、時間は掛かってしまうかもしれません。ですが、長くても数年のうちには完結させるつもりです。途中で挫折しないよう、「書くぞ!」と、ここで宣言しておきます。
 公開できる時が来たら、またpixiv上にアップする予定なので、良かったら読みに来てください。
 前編の内容をキレイさっぱり忘れていたとしても、何の問題もなく読めるようにします。

 では改めて、最後まで読んでくださってありがとうございました!
 甘抹らあでした。

メタ視点から言いたいことは、これがすべてです。……多分。

ちなみに続編についてですが、鋭意執筆中です。ほぼ完成しているのですが、もしかしたら大幅に書き直す羽目になるかもしれないし、何か公募に出すかもしれません。
いつ公開できるか未定なので、気長に待っていただければと思います。

さてあとがきに書いた通り、この作品はかなり拙いです。でも今のところ、書き直すつもりも無いです。
だからこそ、貴重な時間を割いて読んで下さった方のために、何か分かりやすいまとめがあった方が良いのかなと思いました。
そんなわけで書いたのが、今回の記事です。

本作を読んで下さった方にとっては、面白いものになるんじゃないかなと期待しています。
この記事さえ読めば、『僕と公立探偵』のすべてが分かる! みたいな感じです。多分!
(なんなら本編を読むよりも、こっちを見てくれる方が良いのかも)

そんなわけで、早速見ていきましょう!

第1章(出会い)の概要と伏線

ネタバレ無しのあらすじ

中学三年生の男の子・大河内輪吾は、公立探偵・明智那由と出会う。なぜか助手に任命された輪吾は、那由と二人、富豪の息子の誘拐事件を調査することに。誘拐事件と言っても、まだ誘拐されたわけではない。おかしなことに、息子を誘拐すると脅されているそうなのだ。輪吾と那由は、誘拐を防ぐため、捜査に乗り出すのだが――

ネタバレありのあらすじ(続き)

結局、誘拐は起きてしまう。しかし誘拐されてから間もなく、何事もなかったかのように息子は帰宅した。

息子を誘拐したのは、富豪の家政婦だった。富豪は息子が「普通じゃない」ことを気にして、厳しく教育していたのだが、家政婦はそんな息子を不憫に思ったのである。ところが、息子が父親の話ばかりするので、どうしてあんな父親が好きなんだと思いつつも、彼の意思を尊重して、富豪の元へ帰すことに決めた。
これらの事情は、本来明るみに出るハズでは無かったのだが、那由が推理で突き止めた。

伏線解説

「……明日になったら私は、草の道を歩こう」
 電車が去った線路は、どこまでも伸びている。
 少女の言葉が輪吾に対してなのかどうかは、判然としない。あまりにも脈絡のない発言に、輪吾はしばし口をぽかんとさせた。
「初めて見るような景色に向かって手を伸ばす? 私とあなたの為に」
 それでも、少女の言葉に続けていた。

⇒二人が口にしたのは、共通して読んでいた本の一節。後日その本を読む機会があるのだが(第4章)、そこで登場する文章が、この冒頭の文章とは微妙に違う。それは、那由と輪吾の読んだ本が、“同じなのに違う”からだという伏線。この伏線は、第8章の最後で回収される。

次のことをしよう――というのはつまり、自分の使命のために動こう、と思ったのである。行き先は市立図書館。中学三年生は、図書館で勉強をするのだ。

⇒「使命」という表現を使ったことが、一応は伏線である。ここだけ読むと宿題か何かをするように見えるが、実際には、自分が過去に巻き込まれた事件について調べようとしていた。

一体全体どういうことなんだろうという思いはあったが、それ以上に好奇心――いや、ある種の「下心」の方が勝っていた。むろんそれは、自殺にしか見えない行動をとっていた、この謎めいた美女に対するものだ。

⇒那由から助手に任命された直後の、輪吾の心情。「下心」をにおわせていたことが伏線。輪吾は、自分が過去に巻き込まれた事件について、那由が何か知っているのではないかという思いを抱いていた。

 大舘が額を押さえる。
「すみませんね。困ったやつで。こうと決めたら譲らないんですよ。学校帰りに本屋に寄るのもそうだ……」

⇒輪吾とよく似た顔の男の子に対する発言。「学校帰りに本屋に寄る」が伏線。第6章において、アリバイ工作に利用される。伏線回収は、第8章のラスト。

 ――あの川は、もっときれいだったな。
 水が澄んでいた。でも、その水に触れたことはない。覗き込もうとすると、いつも母や先生から止められたのだ。
「危ないでしょ」
 二人はそう言って、輪吾を叱った。
 だけど、輪吾は何度でも川を覗き込んだ。水しぶきを上げる激流に、じっと見入った。あの頃は幼かったから、二人の反応が面白かったせいもある。
 心配されるたびに感じる、愛されているという実感。そのお腹の底の温かさを、輪吾はずっと求めていた。
 今、輪吾に母はいない。先生とも、二度と会えなくなってしまった。実の父親とは、もとより話したこともない。
 今そばにいるのは、養父である凛太だけだ。
 輪吾は、凜太にはいつも笑って見せる。彼には、感謝してもしきれないから。

⇒これは伏線というか、ただの輪吾の過去語り。何かあったんだなと思ってほしいだけの描写。

 輪吾は考えていた。自分の両親のことを。
 今回の事件とはまるで関係がないはずの、母の後ろ姿が目に浮かぶ。

⇒上に同じ。何かあったんだろうなと察してほしい部分。

第2章(老人の転落死事件)の概要と伏線

ネタバレ無しのあらすじ

夏休み明けのある日、学校の隣の塔から、老人が転落死を遂げる。友達の雄基が犯人と疑われていたことから、輪吾と那由は、彼の無実を証明するため捜査に乗り出す。
一方で、亡くなった老人の親族は、彼の遺産を探していた。
彼らから依頼を受け、輪吾たちは宝物探しにも挑むことに。二つの調査を続けるうち、明らかになった真実とは――?

ネタバレありのあらすじ(続き)

老人を殺したのは、老人の息子の一人だった。遺産を巡るトラブルが原因。しかし偶然その場に居合わせた巧(輪吾の友達)が、その現場を目撃してしまった。犯人は巧の名前が分からず、彼を雄基だと勘違い。
そこからいろいろあっていろいろあって、とりあえず解決に向かう。
(端折ってしまって申し訳ないのですが、だいぶ複雑な話なので、説明すると長くなるのです。すみません)

ちなみに老人の真の遺産は、お金ではなく、指輪だった。その指輪に彫られた文字が意味しているのは、今の平和な世界。この世界こそが、宝物だったのである。

伏線解説

「あいつ、ライトの馬鹿がさ、スリの現行犯を殴って一時意識不明にさせちゃったの」
 (中略)
「殴ってって……、あのライトが?」
「そうよ。あのライトが、よ。あんなに凶暴なヤツだとは思ってなかったわー。怖かった」
 (中略)
「えっと、自宅謹慎のことは、モモさんから聞いてますよね。実は僕、そのスリの男を追いかけてる時に階段で転んでしまって。で、骨折しちゃったんです」
 ついでに言うと、スリの男を殴って意識不明の重体にした、というのは不可抗力によるものだったらしい。
「転んだ時、ちょうど落下する地点にその人がいたんです。それで、殴ったみたいになってしまって……。申し訳ないことをしました」

⇒モモさんとライト君(警察官の2人)の発言が食い違う場面。普通に読んだら、モモさんがいい加減なだけに見えるのだが、よく考えれば、どっちの発言が正しいのかは判断できないハズ。ということで、“ライト君が意外と乱暴者なのかもしれないぞ?”という、深読みしちゃう人向けのミスリードのつもりで書いた。

 真っ白でない、その泡の色は何だろう。
 輪吾は機械的にポットを回しながら、茶色っぽい泡を凝視した。
 ――やめて、やめてください。もう帰って!
 悲鳴に近い声が唐突に響く。
 何かに引かれるように、自分の意思とは反する形で振り向かされた。
 知らない男。赤の他人が立っている。
 手には赤い刃物。
 輪吾は、右手で口を覆って後ずさった。にわかに心臓がドクドクと鳴り、喉が渇いてくる。張り付いたような喉の奥でヒューヒュー空気の鳴る音がした。
「あ……ああ……」
 言葉にならない声をもらす。輪吾と対峙する男の両手は、ぶるぶると震えていた。今にも刃物を取り落としそうだ。かすれた赤い色が見える。じりじり後退すると何かが足に当たった。
 机の脚かなと思った。振り向く。
 そこに机はなかった。そういえばポットもコーヒーミルもなくなっている。
 輪吾の足にぶつかったのは、生身の人間の腕だった。
「母……さん……?」
 荒い呼吸の奥で呟く。母がうつぶせに倒れている。口からは赤い泡があふれていた。きめの細かい赤い泡が目に染みる。
「や……嫌だ……何で……」
 膝が震えて立っていられない。かがむと母の隣にもう一人、人が倒れているのが見えた。先生だ。生きているのか、死んでいるのか。
 ――およよよよよ
 知らない男は目を見開き、今にも倒れこみそうなおぼつかない足取りで近づいてくる。
「や、やだ……来るな。やめろよ……」
 輪吾は小さな高い声を上げる。すっかり座り込んで嗚咽をもらした。目の端に血の跡が入り込む。飛び散った、細かくかたまる鮮血。滲んだあと。
 男が刃物を振り上げる。
「あ……い……いや……やめろよ!」
 輪吾は叫んだ。
「何してんだよ。お前なんか知らないんだよ!」
 目を閉じて唾を飛ばしながら絶叫する。
「誰か助けて! 誰か……。帰って来いよ、父さん!」
 名前も知らない父親を呼んだ。助けは来なかった。
 開いた窓のせいで部屋の中にも夜風が吹きすさぶ。外は土砂降りだ。雨と涙の判別がつかない。
「あ……ああ、うわあああああああっつううううっ!」
 喉が引きちぎれそうだ。
 輪吾は飛び上がった。
 男はどこにもいない。母親も、先生も。
 倒れたポットから熱湯がこぼれて、輪吾の足を濡らした。呼吸を整えつつ、立ち上がる。
 風呂場へ向かい、シャワーの水で冷やしながら、今見たものについて考えた。
(あれは、三年前にあったことだ)
 忘れたことなどない。
 あの日、自分の人生はすっかり変わってしまった。
 無かったことにしてしまいたいと、何度思ったことだろう。
 できることなら、過去に戻りたい。
 先生には家に来ないよう伝え、母の手を引いて家を出るのだ。
 凛太に引き取られた直後は、そんな妄想ばかりしていた。
 だが、もう三年が過ぎた。思い出している余裕なんて今の生活にはない。ひたすら悲しみ嘆くだけの時期は、もう終わったはずだ。そうであるべきだ。
 シャワーの音が妙にハッキリと耳に届く。耳障りなくらい。
 今は、午後六時。凛太が帰ってくるまで、六時間以上もあった。輪吾はぼやけた水晶体で、床一面のタイルを見つめた。

⇒これも、輪吾君の過去。伏線というか、こんなことがあったんだなあという程度の描写。

「うち、お母さんいないから」
 輪吾は、ためらわずに答える。輪吾を引き取った時すでに、凜太には妻がなかった。六年前、病気で亡くなったらしい。凛太は、自分が仕事に入れ込むばかりで家族を顧みていなかったことを、ひどく後悔していた。

⇒“読者は凛太が輪吾の養父であることを知っているが、輪吾の周囲のキャラクターたちは、凛太が輪吾の実の父親だと思い込んでいる”というすれ違いが、読み取れなくもない……かなあという描写。

 近くでは、戦時中に開発された技術の一つとして『鍵穴から鍵を複製する』というものが紹介されていた。
 戦前は鍵穴から鍵を作るなんて、高度な技術がないと無理だったようだが、最近では道具をそろえれば誰にでもできてしまう。
 おかげで、ほとんどの家で鍵穴の上からさらに特殊なカバーがかけられている現状だ。上流階級には電子キーも普及している。
 ちなみにバラ屋敷の玄関扉はごく普通の鍵穴で、カバーも付いていない。理由を尋ねたところ、屋敷は中の構造が複雑なうえ、重要な部屋には二重ロックが掛かっているから問題ないのだ、と言われたことがある。

⇒これは普通に普通の伏線。第6章の事件の犯行方法に繋がる。

――もし、母さんが生きていたら。
輪吾は思う。
いったい、何を贈るだろうか。
ハンカチ。手紙。化粧品。花束。お金? ――そんなものではないように思われた。
――もし母さんに会えたなら。
輪吾は、迷いなくその胸に飛び込むだろう。強く抱きしめ、生きていることの喜びを分かち合うだろう。そばにいるだけでいい。何をするわけでもなく、何を贈るわけでもなく。

⇒お母さんのこと大好きじゃんって伝えたい描写。

 考える前に、輪吾の体が動いた。
 足を踏み込む。
 力強く孝彦の腕を取り、背負い投げをかました。

(中略)

「君は存外、荒事が得意なのだな」
 那由が、輪吾の耳元でささやく。
「いや……、そういうわけじゃ……」
 手が出てしまったことを正直反省していたため、輪吾は、うつむきがちに応じた。
 ――今のは、仕方なかったんだ。今のは、だって。
 心の中で、自分に言い聞かせる。
 ――ダメだ、僕はちゃんとしないと。

⇒輪吾君の人間性に関する伏線。彼がただの優しい男の子ではない(場合によっては手を出すことをいとわない)という描写。

第3章(間隙~ジャックオウランタン~)の概要と伏線

ネタバレ無しのあらすじ

下校している最中、友達の巧が、カボチャの被り物をした謎の人物に財布を盗みとられてしまう。輪吾と巧は、彼を追いかけて捕まえようとするのだが――?

ネタバレありのあらすじ(続き)

カボチャ人間の正体は、友達の雄基だった。彼は、巧と輪吾の元気がないことを気にして、からかってきただけなのである。おしまい。

伏線解説

 「僕より速いとか嘘でしょ」
 輪吾は肩で息をした。足には自信があるっていうのに。

⇒伏線と言うほどのものではないけれど、輪吾君の足が速い(総じて運動神経が良い)ことは伝えておきたかった。

第4章(夢見る人)の概要と伏線

ネタバレ無しのあらすじ

今回の依頼は、那由の高校時代の同級生から。三谷華美という彼女は、何者かからストーカーされているのだという。ストーカーを捕まえてほしいという相談かと思いきや、なにやら様子がおかしくて……なんと三谷は、ストーカーに恋をしていた。さあ、一体どうなってしまうのか? そして、ストーカーの正体とは?

ネタバレありのあらすじ(続き)

本当は、ストーカーなど存在していなかった。全ては三谷の自作自演。しかし彼女は、自分がそうしていることを自覚していなかった。軽度の二重人格みたいなものかもしれない。そんな彼女は、捜査の過程で親しくなった巧(輪吾の友達)に新たに恋をし、現実と向き合うようになる。

※那由の母校が舞台になるので、ここで、志田先生(那由の師匠)が初登場する。

伏線解説

「明日になったら私は草の道を歩こう。初めて見るような景色に向かって手を伸ばす。私と君達のために」

⇒第1章の伏線解説の最初に説明した部分。文章の内容が微妙に変わっている。これは、輪吾と那由で読んだ本の形式が違ったから。

「那由はどうしてコレ読んだの? めっちゃマイナーでしょ」
 本を戻さず、梯子に腰かけた。
「手を止めるな」
 那由はぶっきらぼうに言い放ってから、輪吾に目を向ける。
「昔、ある事件現場にこの本があったんだ。初めて見た本なので、自分でも買って読んでみた」
「へえー……」
「君は? どのようにその本と出会ったのだ?」
「僕は人から勧められたんだ、母さんに」

⇒輪吾と那由が、それぞれどのようにしてこの本に辿り着いたのかの説明。第8章の最後に回収される伏線。

びくっと肩を震わせ、インターホンのカメラを覗く。
「やっぱり……」
 那由が立っていた。腕を組み、首をすくめている。上目遣いにカメラを睨む表情は不機嫌そのものだ。

⇒輪吾の家のインターホンに、那由の顔が記録されてしまったという伏線。凛太から「この子は誰だ?」と聞かれ、トラブルのもとになる。伏線回収は、第5章。

「この部屋、僕の部屋の窓から見えるところじゃん。絞り染めの作品を置く場所……なんだ」
 輪吾の部屋の窓とその部屋の窓はほぼ向かい合っている。だが窓に沿うようにして棚が置かれているため、部屋の中は見えなかったのだ。

⇒輪吾の部屋とバラ屋敷の部屋の位置関係を示す伏線。実はこれと似たような描写は、各章につき最低1回ずつ登場している。伏線回収は第7章のラスト。

「僕も実は、コマやったことなくて」
「え、そうなんだ! 男の子ってこういうの好きなのかと思ってた」
「雄基はそうだろうけど、僕は家にコマなんてなかったし……」
「私は学校で習ったけどな」

⇒輪吾君が、コマ回しをやったことがないという描写。単に機会が無かっただけかもしれないが、そういった子供の遊びに縁が無かったことを示す伏線。

「那由さんと二人で話せる機会なんてあんまりないから、話しとこうかと思って。――那由さん、輪吾のお母さんが亡くなった理由って、聞いてますか?」
「いや。知らん」
 那由は、周囲に気を配りながら答える。
 洋貞はハの字に眉を下げた。
「そうなんですね。なんか病気らしいんですけど、俺も詳しいことは知らなくて。アイツ、地元はこの辺じゃなくて、中学入学に合わせて引っ越してきて、その時にはもうお母さんがいなかったんです。お父さんと二人暮らしで、でも、お父さんもあんまり家にいないみたいで」

⇒輪吾が読者に申告している事実と、他のキャラの輪吾に対する認識が乖離していることが分かる(と嬉しいなっていう)やり取り。

「……ありがとう」
 輪吾は呟き、同時にようやく気がついた。
 那由はひねくれ者なんかじゃない。最初からずっと、ものすごく素直で不器用な人だったんだ。
 ――だったら、俺はどうしたらいい?
 輪吾はじっと那由の横顔を見つめる。端正な顔だ。何度見ても、初めて視界に入ったものかのように思える。わずかに緩んだ口元から今感じたのは、衒いのない幼さだった。
 ――僕が、那由に選ばれたっていうんなら。
 輪吾は立ち上がる。

⇒輪吾の一人称に、「俺」と「僕」が混在しているという伏線。他にも何箇所かあるが、ここが一番分かりやすい。輪吾に、すぐに手が出てしまいかねない荒んだ一面と、ごく普通の優しい中学生としての一面があることを伝えたかった。

第5章(クリスマス)の概要と伏線

ネタバレ無しのあらすじ

那由の誕生日にプレゼントを渡し損ねた輪吾は、代わりにクリスマスプレゼントを渡そうと画策する。しかし、何が欲しいのか分からない。そこで友達と一緒に、那由の欲しいものを調査することに。調査過程で浮かび上がる那由の過去に、戸惑う輪吾たち。どうすれば一番喜んでもらえるのか、頭を悩ませるのだが――?

ネタバレありのあらすじ(続き)

調査の途中で父親とトラブルになり、大怪我をする輪吾。トラブルの原因は那由だった。輪吾の父親は、輪吾が公立探偵である那由と親しくしていることを、快く思わなかったのだ。それを察した那由は、輪吾から距離を置こうとする。しかし輪吾は、それが嫌だった。友達とともに調査を続け、那由がかつて経験した事件の真相を突き止める。そして那由の抱える問題を解決することで、彼女との関係を修復することに成功したのだった。

伏線解説

「いいよ。寝てる」
 輪吾は熱っぽい額を押さえて微笑む。
 凛太が、輪吾を病院に行かせたくないと考えていることは知っていた。
 なぜなら輪吾には、母子手帳も健康保険証もないからだ。輪吾の親は、輪吾が母子手帳などの存在を知るよりも前に殺された。事件現場となった部屋からは、どこを探してもそれらが見つからない。
 事情が事情だから仕方ないのだが、凛太は再発行の申請をしていない。いや正直に言えば、再発行することができるのかどうかすら、輪吾は知らない。ともかく凛太も輪吾も、今に至るまで何も手を打ってこなかった。

⇒絶対おかしいだろ?? って思ってほしい部分。普通の養子縁組ではないという伏線。

 先日、那由が輪吾宅のインターホンを鳴らしたせいで、カメラにその記録が残ってしまったのだ。見慣れない美女の訪問は、凛太を狼狽させるのに十分だった。この子は誰なのかと、凛太は何度も輪吾を問い詰めた。心配性な凛太に那由のことを話したくなかった輪吾は、最初こそシラを切っていたものの、結局すっかり白状してしまった。
 そして輪吾が公立探偵と親しくしているという事実は、凛太にとって喜ばしいものではなかったらしい。
 危ないことはないのか、もう会わないようにしてほしい、などと何度も言われた。

⇒第4章の伏線の回収

辺り一面真っ白だ。まるで天国のようである。だが、死んだわけではなさそうだ。死んだとしたら自分のような人間は地獄に落ちるはずだから。

⇒輪吾君の自己否定が強すぎる部分。何か過去に悪いことをしたらしいという伏線。回収されるのは第8章の終盤。

 誰もいないハズの席に、うすぼんやりと浮かび上がる輪郭は誰のものか。自分の母か、凛太の妻か、それとも――

⇒「それとも」のあとの省略が伏線。省略しないで書くと、「本物の大河内輪吾なのだろうか」と続く。

輪吾は包帯を押さえ直した。そこでライトは、深々と安堵の息をもらした。
「良かったあ。君に何かあったら、顔向けできないからね」
 輪吾はきょとんとしてライトの顔を見上げる。不審そうな表情を見て取って、ライトは説明した。

⇒ライトが、不良に絡まれていた輪吾を助けた場面。この「顔向けできない」という台詞が伏線。輪吾はライトにとって、亡き恋人の忘れ形見なのである。伏線回収は第8章の終盤。(というか、ほとんどの伏線回収が第8章)

「そういう言い方は良くありませんが……。そうですね。首相派の中心人物として、校則違反の厳罰化を提唱していました。あの頃は移民の取り締まりも強化すべきと述べていましたね。昨年の内閣改造で外務大臣に変わってからです、人が変わったように移民緩和を強調し始めたのは」

⇒輪吾が聞いていたニュースの内容。「移民の取り締まりが厳しかった時期があるらしい」というのが伏線。この取り締まりで、輪吾の祖父母にあたる人物が罰され、輪吾の母は天涯孤独の身となった。(第8章で判明)

第6章(卒業)の概要と伏線

ネタバレ無しのあらすじ

卒業式の前日。輪吾の養父・凛太が、何者かによって殺害されてしまう。殺害現場は、輪吾の自宅。密室殺人だった。果たして犯人は誰なのか? 過去に起きた事件を思い返しながら、輪吾は那由と捜査に繰り出す。

ネタバレありのあらすじ(続き)

那由は事件の真相に気付くのだが、それを明るみに出さなかった。輪吾は遠方の叔母に引き取られることとなり、町を出る。その際に、那由が約束するのだった。次に会う時には、必ず真相を明らかにしようと。

伏線解説

「輪吾、ここまで音ち……歌苦手だったっけ?」
 洋貞と巧は、あきれ顔で輪吾を見た。
「だって、全然合唱の練習とかしたことなかったし……」
 輪吾は頬を膨らませる。

⇒輪吾の人物像に関する伏線。輪吾が歌うのを苦手としているのは、かつて小学校に通っておらず、家でも大きな声を出すことが禁じられていたから。(第8章の終盤で判明)

 ――いや、大げさだろ。
 一人でかぶりを振る。
「雄基たちは、母さんとは違うんだから」
 輪吾は、繁華街とは反対に伸びる道へ目を向けた。
 少し歩けば本屋がある。その近くにはファストフード店もあったはずだ。

⇒多分ほとんどの人が気づいちゃうんだけど、一応ミスリードを誘う箇所。「本屋がある」とは言ったが「本屋に行く」とは言ってない。みたいな。

「じゃあ、僕はコレ」
 ライトが選んだのは、二つで九十円の安いヨーグルト飲料だった。一つを輪吾に渡し、もう一つの口を開けて飲む。
「……ありがとうございます」
 輪吾は両手でボトルを包んだ。このジュースは、幼い頃、たまに母が買い与えてくれたのと同じ物だった。一度おいしいといったら、その後も度々買ってきてくれるようになった。

⇒ライトが、幼少期の輪吾が好きだった飲み物を的確に選んだことが伏線。ライトは幼少期の輪吾のことを知っている。(もちろんこれだけだと偶然にすぎないかもしれないので、伏線としては弱め)

「輪吾君」
 ライトは、輪吾の言葉を遮る。
「僕は、君の味方です。いつでも」

 (中略)

「ライトさんは? どこにいるんですか?」
「僕は屋敷の玄関にいます」
 ライトは振り返って微笑む。
「大丈夫ですよ。窓は全部閉まっているし、屋敷に、他に人はいません。安心してください」

⇒輪吾とライトのやり取り。ライトが「君の味方だ」「窓は全部閉まっている」と言ったことが伏線。実を言うとライトは、この段階で、うっすらと輪吾を疑っている。だが輪吾のことを信じたい気持ちがある&たとえ本当に犯人だったとしても庇いたい気持ちがあったので、屋敷の全ての窓の鍵を閉めた。このことにより、証拠の一つが隠滅された(のかもしれない。真相は誰にも分からない)。

「輪吾君? 君、輪吾君なの?」
「へっ。あ、は、はい」
 輪吾は高い椅子に隠れるように高峰を見上げた。大柄な女性がじっと彼を見ていた。
「大きくなったわね。全然気づかなかったわ」
「え、えと……」
 輪吾は助けを乞うように那由を見る。
「会ったことがあるのか?」
 那由の対応は素っ気なかった。
「一度だけあったのよね。まア、ずいぶん前だから覚えてないかしら。いろいろ大変な時期だったみたいだし」
 高峰は目を細める。輪吾は胸をなでおろして椅子に座り直した。
「すみません。全然、覚えてなくて……」

⇒高峰と輪吾それぞれの対応が伏線になっている。高峰は「本物の大河内輪吾」と会ったことがあり、彼の話をしている。一方輪吾は、高峰に会ったことが無いので、話がかみ合っていない。輪吾の正体は、大河内輪吾ではないのである(後で説明します)。
運が良かったのは、高峰が、輪吾が別人だと気づいていなかったこと(本物の大河内輪吾と会ったのが、かなり前のことだったので)。

第7章(ヴァズラディーチ)の概要と伏線

あらすじ

公立探偵になった直後の那由と、その師匠である志田晴人のやりとりを描いた一幕。公立探偵の誕生秘話、そして那由が初めて担当した事件について語られる。

伏線解説

この辺りから伏線回収ターンに入るので、新たな伏線はほぼありません。
強いて言うなら、ここで述べられている事件が、本筋と大きく関わってきます。

第8章(再会)の概要と伏線

ネタバレなしのあらすじ

輪吾が町を出てから五年。大学を卒業し、公立探偵としての仕事を続けていた那由は、八年前の事件の再捜査に取り掛かっていた。そこへ現れたのが、二十歳になった輪吾。輪吾はかつてのように助手として一緒に捜査をしたいと申し出、二人で行動することになるのだが――?

ネタバレありのあらすじ(続き)

五年前、輪吾の父親を殺したのは、輪吾自身だった。正確に言うと、無理心中に抵抗したのち、本人に頼まれて殺したのだ。当時、那由はその事実に気付いていながら、なぜそんなことになってしまったのかが分からなかったため、真相を明かさずにいた。

なぜそんなことになってしまったのか。

その理由は、八年前にさかのぼる。輪吾が母親を失った時のことだ。輪吾は実の父親に母親らを殺害され、一人で逃げ出した。そこで出会ったのが、大河内輪吾の死体と、彼の父親だったのだ。

輪吾は、本名をアレクという。本物の大河内輪吾は、その日自殺した少年だった。彼の父親は、息子の死を受け入れられず、死体を山に埋めようとしていた。そこに現れたアレクを見て、息子として育てることに決めたのである。アレクは大河内輪吾になりかわり、今まで過ごしてきた。
アレクにはもともと戸籍が無かったため、今に至るまで、足取りを追われずに済んでいたのだ。

なお、今回の捜査の過程で、輪吾の実の父親が死亡し、警察官のライトは右手を失う。

伏線解説

 那由は、八年前の事件を思い出す。
 防犯カメラから消えた男。
 死亡届が出されていた容疑者。
 何十年も昔の犯人の再来だと言われる、ヴァズラディーチ。

⇒「八年前」が伏線。計算すると、輪吾が母親を失ったのと同時期であることが分かる。

「八年前のある事件の、再捜査をすることになった」
 那由はヴァズのことを伏せて、八年前の事件の説明をした。
「そっか……」
 痛ましい事件に目を伏せる輪吾。
「亡くなった女性には、子どもはいたの?」
「いいや」
 那由は首を横に振った。
「一人暮らしだったし、妊娠の記録は残っていない」
「そうなんだ。……良かったね、取り残された人が、いなくて」
 輪吾は胸をなでおろす。

⇒那由と輪吾のやり取り。輪吾が「子どもがいたのか」と聞いたのは、自分の存在に感づかれているのかを知りたかったから。公的に認知されていないだけで、輪吾こそが、この亡くなった女性の子どもなのである。

「君も、この町には来たことがあるか?」
 歩きながら、那由は尋ねた。へのへのもへじの顔のかかしが、畑から二人を見ている。
「いや、初めてだよ。どうして?」
「少し気になっただけさ」
 この町は、転職する前に凛太が住んでいた場所のすぐ近くだ。来たことがあってもおかしくはなかったが、輪吾は否定した。

⇒輪吾の行動が裏目に出ている部分。彼は、自分と事件の関係に気付かれたくなかったので、この町に来るのが初めてだと告げた。しかし実際には、かつてこの近くに住んでいたことになっているのだから、この町に一度も来たことが無いというのは、むしろ不自然だった。

「輪吾君、どうしてここに?」
 その隣で、ライトも目を丸くする。

⇒ごく普通の反応だけど、一応伏線。ライトが、めちゃくちゃ驚いている。「輪吾お前なにしとんの??」くらいに思ってると思う。

 ライトは緊張した面持ちで、輪吾を一瞥する。

⇒ここも、同上。ライトが過剰に緊張している。

「ザーフトラ ヤ ザハジュー――明日私は寄り道する。日本語では『明日の寄り道』というタイトルになっている本だな」
 那由は、ここでこの本と出逢ったのだ。もっとも現場にある本は原語で書かれているため、那由がその後手に入れて読んだ本とは、少し異なるものだが。那由はパラパラと本をめくった。ロシア語の上に、日本語でルビが振られている。

⇒輪吾と那由が共通して読んでいた本に関する伏線。ここと今までの描写を合わせて考えると、こちらの原語版の方を輪吾が読んでいたことが分かる。かもしれない。

「ピカ君だよ。最近、全然連絡つかないけど……」
 躊躇いながらも、スマホの電話帳を開いて見せてくれる。見ると、『滝川明人』と書かれていた。これが恋人の名前らしい。

⇒那由が八年前に捜査をした際の、回想の一場面。この「滝川明人」の読みを書かなかったことが伏線。彼は「明人」と書いて「ライト」と読む。警察官であるライトのことだが、那由は今まで気が付いていなかった。

 曰く、エレザの両親は、戦後日本に取り残されたロシア人孤児だったらしい。
 しばらくは平穏に暮らしてエレザを生んだが、政府の取り締まりが厳しくなると、不法移民として処罰された。戦災に遭ったことを証明できる書類が無かったのだ。ちなみに、この時移民の取り締まり強化を提唱していた閣僚の一人が田辺彰の父親である。

⇒第5章の移民に関する件の伏線回収。

「高野灯から聞いたんだな。輪吾君のことを」
 那由は、ライトを見返した。
「……そうです。五年前まで、直接輪吾君に会ったことはありませんでした。でも、絶対誰にも内緒だよって言われて、灯から写真を見せてもらったりしてて。五年前、踏切で輪吾君を見た時には、信じられなかったけど、やっぱり本人だったんですよね。幸せそうに暮らしてたから、それでいいんだって、僕は、思ってしまっていて」

⇒ライトの正体。彼は、輪吾の母親とともに殺害されたもう一人の被害者、高野灯の恋人だった。今までの伏線回収。

ここからは怒涛の伏線回収ラッシュです。

 そして、アレクは十二歳になった。
 長い間かけて、灯は色々なことを教えてくれた。
 字の読み書き、絵の描き方、本の読み方、人との話し方……。
 騒いではいけないと言われていたから、歌うことはできなかったし、家には子ども用の玩具もなかったけれど。
 学校の宿題を見せてくれることもあった。灯は、最良の先生だった。彼女の説明はどんな本より分かりやすくて、アレクはみるみる勉強が好きになった。新しいことを知るのが、とても楽しかった。
 防犯カメラがないからと、山奥まで行って、一緒に走り回ることもあった。捨てられていた、壊れかけの自転車を乗り回した。得体のしれない木の実を砕いて、お医者さんごっこをした。

⇒輪吾の過去から、抜粋。歌えなかった。遊べなかった。だけど、勉強はしていた。本も読んでいた。山の中で遊んでいたから体力もあるし、壊れた自転車に乗っていたから自転車の乗り方も分かっていた。という、今までの伏線回収ラッシュその1。

「今では、何が分かっているの?」
 輪吾の声はかすれていた。
「君が、エレザさんと山中の息子であるということ。そして八年前の事件の後、おそらくはこの山で、『本物の大河内輪吾』と入れ替わったということだ」
「そんなことができるのかな?」
 目を伏せる輪吾。くせっけの隙間から覗く耳は、先まで真っ赤に染まっており、緊張が見て取れた。
「できる。なぜなら、『本物の大河内輪吾』が、あの日に死んだからだ。そして、君の存在を知るものは、山中以外には誰もいなかったからだ」
 那由は、言葉を続けた。
「世界中のどの病院も、君が産まれたことを知らない」
 漆黒の瞳で、青年を見据える。
「政府ですら、君の存在を知らない」
 薄桃色の唇を動かす。
 全ての音が遠のき、那由の言葉だけが、確かな響きを持って宙に放たれた。
「君は、無戸籍児だね」

⇒今までの伏線回収ラッシュその2。輪吾は無戸籍児だった。そして、「本物の大河内輪吾」になりかわっていた。

「那由はなんで、僕が母さんの息子だって、分かったの?」
 那由は嘆息し、頬を緩めた。
「確信したのは、本のおかげだよ」
「本?」
「明日の寄り道。出会った時に君が口ずさんだフレーズは、私が持っている本とは違ったんだ」
 那由は暗唱する。
「『明日になったら私は草の道を歩こう。初めて見るような景色に向かって手を伸ばす。私とあなたのために』これが、君の言ったもの。だが、日本語訳ではこうなっているんだ。『明日になったら私は草の道を歩こう。初めて見るような景色に向かって手を伸ばす。私と君達のために』」
 すると、黙って聞いていた雄基が口を挟んだ。
「どこがちげぇんだ?」
「最後の一文だよ。輪吾君は『私とあなた』と言ったが、私の本では、『私と君達』になっている。そして、あの本の邦訳はワンパターンしかないはずなんだ。推察するに、輪吾君が読み上げた訳は、エレザさんが書き込んだものではないか?」
 那由の問いかけに、輪吾が、うっすらと目を開く。地表に生える短い雑草を見ながら、呟いた。
「ヴィの活用形なんだ。原語だと」
「вы――二人称複数の代名詞か」
 那由は頷く。
「そう。でも、丁寧な二人称単数の意味にもなるんだって」

⇒今までの伏線回収ラッシュその3。輪吾と那由が共通して読んでいた本について。

第9章(謀反)の概要と伏線

ネタバレ無しのあらすじ

一連の事件が終わった後の後日談。輪吾を引き取った那由のもとに、警察官のモモと、元師匠の志田先生が訪れる。そしてそこで、新たな真実が明らかになるのだった。

ネタバレありのあらすじ(続き)

今回の件の黒幕は志田先生だった。彼は輪吾の過去にいち早く気づき、それを自分の計画に利用できないかと考えたのだ。志田先生の計画は、探偵局(公立探偵たちが所属する組織)を瓦解させること。那由を自分の味方に引き込むため、事件に誘導したのだという。(あくまでも誘導しただけで、自分が何か悪いことをしたわけではない)

しかし那由は、誰にも与したくないと考えていた。彼女はただ、傷ついた輪吾のことを守り続けたかった。そこで志田先生と決裂し、私立探偵になることを決める。

(ところが志田先生には、諦めている様子が無いのであった。To be continued? な終わり方)

伏線解説

まだ回収されてなかった伏線に関しては、ここでが――ッと回収して、おしまい! って感じです。その他は特になし。

番外編(ピカピカ光る)の概要と伏線

あらすじ

ライトの過去編。灯に恋をしたところから、彼女を失って絶望するところ、そしてそこから立ち直る過程を描く。
ちなみにここで、小浜翠が登場する。(翠さんは、続編の主要キャラ)

伏線解説

ただのライト君の過去編なので、伏線とかは無いです。鬱描写多め。

おまけ:登場人物の外見まとめ

本文に記述が無い部分は、読者様の想像にお任せしたいと思っています。
ただイラストを描くこともあるので、作者の中ではこういう設定だよというのを以下に載せておきます。気になる人向け。

明智那由

明智那由 登場人物紹介
サンタのコスプレをした女の子のイラスト
写真を撮る男女の絵
右が那由

黒髪。黒目。色白で、絶世の美女。
基本的には仏頂面だが、輪吾の前だと結構笑う。あと、かっこつけた笑い方もよくする。
髪型については、高校卒業までは、ざくざくした三つ編みのお下げ。その後は顎下くらいのショートカット。ぱっつん気味。
スタイルは良いが、低身長。155㎝くらいで、輪吾と変わらない。

大河内輪吾(本名:アレク山中)

大河内輪吾 登場人物紹介
笑顔の少年の絵
張り込み中の男女
左が輪吾

青みがかった黒髪。硬いクセ毛。髪の毛はいつも爆発気味。
鼻の周りのそばかすがトレードマーク。丸顔。童顔。
感情表現が豊かで、よく笑う。
男の子にしてはとても背が低く、155㎝程度しかない。中学卒業後も変わらず。

田中モモ

ピンク色の髪が特徴的。ポニーテールにしている。しっかりと手入れをしているので、髪質が良い。ピンク色なのは地毛。
表情は強気なことが多い。
女性にしては背が高く、170㎝近くある。
オフィスカジュアルな服装を好む。

滝川ライト

床ドンみたいなイラスト
プロポーズの絵

青みがかった黒髪。30代半ばまでは前髪を下ろしていたが、あまりにも年下に間違えられやすい(童顔なので)ため、少しでも年上に見えるようにと、前髪を上げるようになった。(前髪を上げるようになった時期と、右手を無くした時期が同じ)
若干面長だが、角度によっては丸顔に見える。そんな感じの輪郭。
表情は、気弱で優しげなことが多い。目じりだけちょっぴり垂れている、たれ目。
いわゆるイケメンで、背も高い。180㎝以上ある。

最上雄基

黒髪。おしゃれにこだわりがあり、頻繁に髪型を変える。
顔はいかつい。四角くてごつい感じ。体格もいいので、ぱっと見が完全に不良。怖がられやすい。
服装は、民族衣装をモチーフにした派手なものが多い。身長は巧と同じくらい。

佐竹巧

茶髪。短髪。
女の子にもてることを最重視して、服や髪型を決める。よって、その時の流行に応じて変化する。
面長で細身。筋肉質ではなく、ひょろっとしている。身長170ちょい。

友江洋貞

黒髪。顎下まである男子にしては長めの髪を、綺麗に切りそろえている。王子様カット。
正統派のイケメン。ジャニーズにいそうな感じ。
清潔感とお金持ちオーラがある。
服装はカッチリしたものが多い。身長180cm以上。

三谷華美

黒髪。肩くらいまであるミディアムショート。ふわっとした髪質。たまに、茶色やピンクに染めることがある。
かわいらしいファンシーな衣装を好む。
身長は160㎝弱。ぽっちゃり気味だが、デブというほどではない。本人はやや気にしているものの、体質なので痩せない。

高野灯

茶色がかった黒髪。長さは顎下くらいのショートカット。ぱっつんではなく、若干内巻き気味。
瞳が大きなアーモンドアイ。丸顔で、童顔。
身長は、女子の平均。だいたい158㎝。

志田晴人

黒髪。毛量が多い髪を、無造作におろしている。長髪ではない。たまに片目が隠れる。
服を汚したくないので、だいたいいつも白衣を着ている。
眼鏡は赤縁or銀縁の、四角いやつ。
胡散臭いのが特徴。

小浜翠

エスカレーターに2列乗りする男女の絵
左が翠
通勤中にスマホを見る女の子のイラスト

ピンク色の長髪。髪型は頻繁に変わる。割合で言うとツインテールのことが多い。ピンク色は地毛で、違う色に染めることもある。
瞳は緑色。本当は黒だが、カラコンを入れている。
衣装は派手め。ゴスロリ趣味がある。小物なども、とにかくゴテゴテ。ただしTPOはわきまえる。
身長は、女子にしては高め。160㎝台後半くらい。ライトと並んでも違和感がない。

まとめ

以上、拙著『僕と公立探偵』についてまとめました!

作品を読んで下さった方、また、「読んではないけど興味あるよ!」という方がいたら嬉しいです。

甘抹らあでした!
Twitter(低浮上かも)▶@amamatsu_lar